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2022年2月15日

【M&Aコラム】後継者がいない税理士のための予備知識(7)

後継者がいない税理士のための 予備知識(7)
事業譲渡ではなく後継者を探したい所長先生へ

 事業承継の方法は大きくは2つ。自力で解決するか、他社と連携するか。前者では後継者を探すことになり、後者の代表例は税理士法人に事業譲渡(M&A)する方法です。弊社の経験では、所長先生が希望される前者と後者の比率は、7:3くらいと思われます。弊社では昨年4月から「税理士後継者紹介サービス」をスタートしましたので、後継者を探す場合の心構えをお伝えします。

 

■M&Aを避ける理由

 一生に一回だけ経験する事務所の事業承継。失敗したくないのは当然であり、理想のカタチになるべく近づけたいものです。では、理想のカタチはどのようにイメージされるのでしょうか。それは、所長先生の知識の範囲内から作られるものになります。知識には個人差があり情報量も違いますし、仕事や人生の考え方もそれぞれです。それでも、多くの相談を経験すると代表的なイメージは見えてきます。

 事業譲渡(M&A)を選択すると、これまで培ってきた顧客との深い関係が薄れビジネスライクな対応になっていくのではないか。職員もそのような変化を受け入れられず退職してしまうだろう。何十年もかけて築き上げた事務所の実績が消え去ってしまい何も残らないのではないか。また、地域の知人からは事務所を売ってしまったと思われるのではないか。M&Aを否定的に捉えるご意見はこのようなイメージが多いと思います。そういう事例があり、そういう噂が耳に入るからこそ、事業譲渡(M&A)を避けるのでしょう。

 逆に後継者となる税理士を迎え入れ、顧問先ごとにその税理士を後継者として紹介して廻り、時間をかけて顧問先、職員との信頼を築き、自分の所長席をそのまま譲る。この方が顧問先も離れないし職員も幸せだろう。大きく発展できるかどうかはわからないが、事務所は維持してくれるだろう。後継者を探すという方法を選択される所長先生には、このようなお考えが多いのでしょう。弊社も、このような声が多いため「税理士後継者紹介サービス」をはじめました。

 

■後継者と出会う確率

 以下、機械的に推測します。昨年の税理士官報掲載の合格者は585名。大都市圏を除く平均的な県の人口は150万で、総人口に占める割合は1%程度ですから同一県内の出身の合格者は、5名から10名です。さらに東京・大阪・名古屋・福岡などで開業する場合も多く、さらに結婚して家族がいる場合には出身県に戻る可能性は低くなります。後継者のイメージは、35歳から45歳くらいが多いようですが、イメージに叶う税理士と出会う確率がいかに低いかが見えてきます。また、大規模な税理士法人の所属税理士の年収は1,000万円を超える場合が増加していますので独立志向も低下傾向にあります。さらに県庁所在地以外の市町村ならば、同じ地域の出身者と出会える可能性はもっと低くなってしまいます。

 

■承継が成功する確率

 運よく候補者を見つけることができても、信頼関係をつくれるかどうかは性格や相性もあり簡単なことではありません。ましてや、候補者が魅力を感じる条件を提示できないとなれば、承継契約まで辿り着くことはできないでしょう。つまり、イメージに近い税理士と出会い理想に近い承継できる可能性は決して高くないということです。そのためにも、同じ県や地域の出身者でない税理士でも、その地で承継したいと魅力を感じてもらうくらいの心構えが必要なのかも知れません。

 「税理士後継者紹介サービス」は、一つの出会いから始まって、縁もゆかりもない場所にでも、結局はこの出会いが縁となって税理士として根付いてもらうことを大きな理想としています。税理士の高齢化が進み、若い世代の税理士がいなくなっていく地域も多くなっています。地域に根付き地域に貢献する税理士との出会いを是非、実現したいものです。

 

■大型化する税理士法人

 他方、一部の税理士法人の大型化は加速しています。大型化の重要な手法の一つが事業譲渡(M&A)です。すでに職員100名どころか200名を超える税理士法人が少なくとも30は超えています。大都市圏以外でも50名規模の税理士法人に成長しているケースが増加しています。規模の大きい事務所は職員採用力が上がり、その結果、多彩な職員も採用できるようになり、組織としての幅が広がります。事務所をM&Aする場合には、M&Aする側の人材も重要となり、さまざまな支援をする体制も必要になってきます。

 多彩な人材が揃うと、顧客を引き付け事務所はさらに発展する好循環に入ります。つまり規模が大きくなること自体にメリットがあるとも言えます。規模を追求しない事務所も多数ありますが、税理士法人の大型化はまだまだ続くと思われます。

 

■事業譲渡も選択肢としてみる

 事業承継の方法として後継者を探す場合にしても、その地域や事務所の状況から冷静に将来の生き残り戦略を考えみるべきと思います。所長先生を上回る営業センスのある後継者を期待するのは高望みかも知れません。事業譲渡(M&A)にも契約方法を工夫することでM&Aのイメージとは違う経営統合も可能です。結局は、後継者を見つける場合と同じで、事業譲渡でもお相手の代表者との信頼関係が作れるかが大前提となります。信頼関係はお互いが本音で話し合い、お互いが相手の立場を尊重する中で作られていくように感じています。後継者を探すことを承継の方針として進める場合には、確率が低く時間を要することも覚悟して早めに進めるべきであり、また、当初からM&Aのイメージだけでその選択肢を排除しないこともお伝えしておきたいと思います。

 

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本コラムは「税界タイムス」で弊社アドバイザーが連載している内容をご紹介しております。

 

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