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2022年8月3日

【M&Aコラム】後継者がいない税理士のための予備知識(10)

後継者がいない税理士のための 予備知識(10)
後継者を招聘するための代表的な課題

(株)MJS M&A パートナーズ 会計事務所事業承継専任アドバイザー
中尾 安芸雄
ジャスネットコミュニケーションズ(株)事業開発室長
安島 洋平

 

 後継者を招聘したいという所長先生には、多くの場合、事務所承継のイメージに共通性があり、それを前提としたご要望にも同様に共通性があると感じます。この要望を実現するためには、その難しさの要因を事前に理解しておくことが有益でしょう。後継者の招請が、事業譲渡に比較して、何が、どのように難しいかを理解した上で、後継者探しに取り組んでいただきたいと思います。

 

「税理士後継者紹介サービス」への期待と不安

 「事務所の譲渡は考えていない」「譲渡したら職員が辞めてしまう」「顧問先から不満が出る」など、所長先生の中には、会計事務所の事業譲渡に否定的な意見があります。そこで、「事業譲渡ではなく後継者となる税理士を探して欲しい」という要望にお応えするために「税理士後継者紹介サービス」をスタートしています。しかし、後継者を招聘して事務所を承継していくためには、下記のような課題があります。

 

■課題1 結婚と離婚に近い個人と個人の関係

 事務所の後継者となる税理士を迎え入れることは、結婚に近いと考えるべきでしょう。大雑把に「3組に1組が離婚する」という日本の離婚率がありますが、後継者候補の税理士が離れてしまうケースは、税理士法人の解消も含めて、相当数発生していると実感します。離婚率を超えているのではないでしょうか。
 事業譲渡で、特にお相手が税理士法人の場合には、組織が相手となります。勿論、税理士法人の代表者の人柄や経営方針が重要ではありますが、担当税理士を交代するなど、離婚まで進む前の解決策があることは事実です。後継者の招聘は、結婚と考え、そもそもリスクが高い、という認識が必要です。招聘後に信頼関係が崩れると、またゼロからのスタートとなります。

 

■課題2 自分の歴史への強い思い

 この課題が最も根底にある難しい課題かも知れません。何十年間に渡り歩んできた事務所であり、苦楽を積み上げて来た人生の大部分の場合が多いでしょう。顧問先との深い信頼関係は、やはり自分があったからこそと考えるのは当然と思います。だからこそ、この事務所を残したいという気持ちには、自分の歴史を反映させて残したい、そうすることがお客様への責任であり、職員も望んでいると。
 しかし、冷静に考えれば、所長先生と同じことができる後継者と出会える確率は低いと考えるべきです。逆に、自分は大したことはしていないし、税理士なら誰でもできるくらいに感じている所長先生の方が、承継は成功する場合が多いでしょう。人に仕事を任せることが苦手な先生は多いのですが、事務所承継も理想に向かって完璧主義で臨むと苦戦する場合が多くなると思います。

 

■課題3 世代間の意識の格差

 希望する後継者候補税理士の年齢は、やはり40代あたりがイメージしやすいようです。今の時代は最低でも65歳くらいまでは現役ですから、これから約20年間は任せることができるでしょう。しかし、40代は、すでに事務所を開業しているケースが多く、仮に事業譲渡型の後継者招聘になるにしても、制約条件が多くなります。これから独立を考えている、あるいは、開業してまだ日が浅い税理士となると30代も視野に入ります。実務経験が浅いなどの意見もありますが、この世代は、クラウドソフトやリモートでの業務がむしろ当然で、またそれを望んでいる世代です。
 現状の業務形態をいきなり変えることはできませんが、次第に変わっていく、変えていくことを許容するべきでしょう。無理かどうかは、後継者の判断に任せることも必要かも知れません。

 

■課題4 「教育する」という視点と姿勢

 「数年かけて徹底的に自分の仕事を教え込む」という所長先生が多いようです。これは課題2とも重なりますが、ここが実は大きな「落とし穴」ではないでしょうか。しっかりした仕事をしてきたからこそ、お客様に満足してもらったという自信があるからこそ、当然に、必然的に、このような思考になり、それを実践しようと考えてしまいます。しかし後継者には、後継者なりの目指したい事務所像があるでしょう。特に若い世代になるほどに、世代間格差は大きくなりますから、そもそも弟子になることを望んでいない場合の方が多いと思われます。事務所承継は何回も経験することではないために、この「落とし穴」に気づかれない場合が多いと感じています。

 

■課題5 計画性ある決心

 後継者候補を例えば「副所長」などの肩書として「教育」し、先生がお考えの「合格ライン」に達したときに正式に事務所を承継させる、というのも、課題4の「落とし穴」同様に、承継が上手く進まない要因になることが多くなります。立場を逆にしてみれば分かることですが、事務所を承継することを条件あるいは目的として参画した税理士としては、「合格ライン」の基準もタイミングも不明瞭です。両者の関係は対等であるべきなのでしょう。若い世代の税理士が減少している現在、徒弟制度的な思考は、承継の確率を高めることにはならないと思われます。期間と条件を明確にして、その通りに接する決心が必要と思います。

 

■課題6 地域のミスマッチ

 税理士資格を取得したら独立することが主流だった時代から、最近では一般企業や大手税理士法人に勤務することを選択する場合も多くなっています。大都市以外の事務所の場合、出身地等、何らかのご縁がないと、なかなか検討する段階までは進まないようです。業界自体が職員の採用でも苦労されている状況下、後継者の招聘も同じ状況にあると言えます。

 

■課題7 経済的なデメリット

 事務所の承継は、スキームはいろいろありますが、通常、対価が発生します。その意味では、事業譲渡(M&A)と同様に事務所価値の計算と支払い方法を検討することになります。当然のこととして、お相手が税理士法人等であればある程度資金力もありますが、後継者の招聘の場合には、資金力が低くなりますから、この点は事前に覚悟しておく必要があるでしょう。

 

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