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2022年4月7日

【M&Aコラム】後継者がいない税理士のための予備知識(8)

後継者がいない税理士のための 予備知識(8)
事業譲渡額に関する譲り受ける側の論理

 事務所の承継方法として「事業譲渡」を選択する場合に、その交渉の中心テーマが「譲渡価額」になることは仕方ないかも知れません。しかし、同時に所長先生の要望の多くは「職員の雇用の維持」でもあります。すべての希望が叶うケースは稀ですから、一旦、譲り受ける側の視点で考えてみることも有益です。交渉がスムーズに進む大きなポイントでもあるからです。

 

■売上1億の事務所の評価額

 事務所の評価額の計算方法として、弊社は「売上基準」と「利益基準」を併用しています(本連載第3回に記載 https://mmap.co.jp/news/column_20210416/)。実際には、売上基準と利益基準を比較してその間の評価になる場合がほとんどです。売上基準の場合には、相続税等の臨時的な収入を除外した定常的な売上の70%くらいをご提案しています。定常的な売上が1億なら、売上基準では最大7000万くらいということになります。何故、70%程度を上限としてご提案しているかを、簡単な例でご説明します。

 

■平均的な事務所の損益構造

 事務所の損益構造は、規模や所長年齢、さらに当然のことですが経営方針により、事務所ごとにかなりの差があるのが実情ではありますが、平均化・単純化すると図Aに近いものになります。人件費(社会保険、通勤費、福利厚生費、退職積立等も含む)が約50%近くを占め、その他経費と利益が各々25%程度。売上1億の場合には、利益2500万くらいでしょうか。勿論、利益が10%を切っている先生もおられますし、組織が大きくなると25%の利益は難しくなる場合が多いようです。

図A

 

■投資回収期間は、3年から5年

 事務所を譲り受ける側としては、果たして何年目くらいから利益を望まれるでしょう。いろいろな考え方の先生にお会いしますが、2年から3年くらいで投資を回収したいとお考えの先生が多いように感じます。会計事務所として3年間は利益を見込めないというのは、我慢強さが必要でしょう。他方、5年くらいを想定し、資金が廻れば良いという先生もおられます。経営統合後の売上増やシナジー効果を期待できる場合には、回収期間は予定よりも短くなる場合もあるでしょう。しかし実際には、顧問先の離反を防ぎ現状維持を当面の課題とする場合が多いと思います。投資回収期間を5年くらいと考えられる税理士法人は、相応の体力が必要と言えるでしょう。

 

■追加人件費を加味

 例えば、売上1億の事務所を、7000万で事業譲受した場合、利益2500万を維持できれば約3年で投資回収することになります。しかし、売上1億の事務所には10名前後の職員がいますので、所長職を承継するために、通常、税理士を1名必要とする場合が多くなります。仮に税理士1名を赴任するための追加人件費を1000万とすると利益は1500万に減少(図B)します。この場合、投資回収期間は実際には約5年となります。仮に年間売上高と同等の1億の事業譲渡額とした場合には、売上増・経費削減等の改善が進まない限り、投資回収に約7年も要することになってしまいます(図C)。

図B  図C

 

■雇用の維持、待遇アップ

 当初予定した投資回収期間も、顧問先が離れてしまえば投資回収どころではなくなります。例外もあるでしょうが、職員が継続して勤務しているケースは顧問先との関係も安定しています。そのため、弊社では職員の雇用の維持をまず優先して仲介をするようにしています。業務を改善しサービスを向上させていくことは必須ではありますが、その前提として職員の離職率が低い組織が必要になります。社風が異なる職員が一つの組織になるわけですから、事業を譲受する側の組織文化はとても大切です。職員の雇用の継続のためには、急激な業務内容の変更は避け、まずは従来の業務をそのまま引き継ぐような寛容さが必要となります。さらに、投資回収期間であっても一定の昇給などの待遇の向上は必要でしょう。

 

■事業譲渡額と職員雇用のバランス

 事業譲受する側としては、拠点ごとの損益を把握する中で、投資回収があまりにも長期に渡る場合、どうしても人件費を見直す必要が出てくることは自然な流れです。当初は意図していない場合でも、経営である以上、利益を出さないと事業継続できないわけであり、事業譲受額が高いほど、職員の待遇アップの障壁になることは必然です。このあたりのバランスは、やはり、考慮して交渉は行うべきだと思います。このような背景があるために、弊社は、事業承継を事業譲渡方式で行う場合には、売上基準では売上の約70%を上限の目安にしています。現在も、会計事務所のM&A業界では、拡大志向の税理士法人を中心に事業譲受の希望は多く、他方、後継者問題を抱える事務所は事業譲渡よりも後継者紹介を希望するケースが多いため、売手市場と言えるでしょう。しかし、仮に、事業譲渡を選ぶ場合でも、譲渡価額が高過ぎると職員の処遇に影響してしまう場合があることも考慮した方が良いと思われます。

 

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