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2021年12月6日

【M&Aコラム】後継者がいない税理士のための予備知識(6)

後継者がいない税理士のための 予備知識(6)
「自分でやってみる」会計事務所の事業承継

 親族や職員に有資格者がいない場合などに、後継者をご自身で捜し出して事務所の承継を進める所長先生は全国に多数おられます。上手く承継できるケースも多いと思いますが、時々耳にするのは、後継者が退職してしまったという話。せっかくの苦労を振り出しに戻さないために、仲介業者としての経験をまとめましたので参考になれば幸いです。

 

■承継の方法は1つではない

 平成は勿論のこと昭和の時代から、会計事務所の事業承継は全国各地で行われてきました。近年、日本でもM&Aという用語が会計事務所業界にも広がるにつれ、事務所の事業承継の解決方法の一つとして事業譲渡(M&A)も次第に浸透しています。しかし、それでもご自身でお相手を探して承継交渉を進めるケースが一番多いようです。

 多くの所長先生は、自分が歩んで来たこれまでの税理士人生の延長線上に後継者候補のイメージをつくり上げる場合が多くなります。しかしながら、時代も、業界も、それに若い世代の考え方も変化していますから、そのイメージに固執しない方が良い場合が多いと思います。

 別の言い方をすれば、そのイメージ通りの候補者に出会う可能性はかなり低いと考えるべきでしょう。税理士試験受験者が年々減少し、さらに大量の有資格者が大手税理士法人等に採用され、結果的に、平均的な小規模の会計事務所を承継しようとする税理士の数自体が少ないのです。

 後継者を招聘する方法とともに、税理士法人等に事業譲渡することも念のため検討してみるべきと思います。税理士法人等への事業譲渡は、所長先生の承継のイメージと合わないと決めつけるのではなく、税理士法人の代表者と会って、その人柄や考え方に触れてみることも良いと思います。先入観が正しくない場合もあるからです。

 それでもやっぱり後継者を招聘するという結論に達した場合には、以下のことに注意を払っていただくと良いと思います。

 

■口約束ではなく契約書をつくる

 全国それこそ至る所で後継者が退職する事態が昔も今も続いています。皆様も同じ支部などでお聞きになったことがあると思います。その原因の一つは、十分な契約書を作っていないことが考えてられます。信頼できる人物と感じたから後継者候補として迎え入れるわけです。ついつい、細かいことまで決める必要はない、必要な時に話し合って決めればいいと考えがちです。しかし、「必要な時」は「将来」ではなく「今」なのだと思います。話し合うことによって決めるべきことが何であるのかが理解でき、話し合うことによってお互いの考えや思惑が見えて来ます。この段階で仮に信頼感が薄れて心が離れても、それは将来そうなるよりずっと良いことでしょう。

 話し合いを始めるときは、決めるべきことはじっくり話し合って契約書などまとめましょう。所長先生からご提案いただきたいと思います。逆に候補者からその要望があれば快く受け入れて欲しいものです。多くの所長先生が上下関係として、つまり承継する機会を与える、チャンスを与えている、という意識で接してはいないでしょうか。雇用契約を締結する場合や、業務委託としてスタートする場合などスキームはいくつかありますが、いずれにしても自分の立場が上という意識ではなく、契約ですからあくまで平等な関係が大前提にあるべきと思います。

 

■契約書に記載すべきこと

 それでは、ご自身で契約書を作成する場合に、最低限記載しておくべきと思われる項目をご説明します。

1)承継スキーム

 所属税理士として雇用契約を締結するか否か、あるいは業務委託契約としてスタートするのか。後継者がすでに税理士として開業している場合には、顧問先との関係もあり一旦廃業するのは難しい場合もあります。その場合には、開業税理士を維持したまま業務委託契約を締結し、事務所所在地を同じ建物等に移動する方法もあります。

2)承継時期

 この取り決めが非常に難しいところです。そのため承継の時期を曖昧にしたまま雇用契約を締結して後継者候補として勤務を始めるケースが多いのではないでしょうか。所長先生としては、本当に事務所を任せて良いのか慎重に判断したいというのが本音です。経歴や数回の面談で判断することは確かに無理があり、実際に一緒に仕事をしてその適性を確かめたいところです。他方、後継者の側からすると、将来、所長になるつもりでその事務所に転身しているわけであり、その時期がいつになるのか分からないという状態は次第に不安感を増すことになります。

 承継する時期を判断する時期を1年後とか一定の期間を区切って契約書に記載することをお勧めします。所長先生の中には、例えば5年後の承継を希望するケースがありますが、それは所長先生の立場からの要望であるという視点を持つことが重要で、候補者の立場からは1年ごとに進展があるような契約が重要だと思います。

3)承継対価、給与等の金額

 承継に関して経済的価値をどう計算するかも難しいところです。まずは承継対価とは何かということになりますが、承継時の顧問先斡旋手数料や事務所資産の譲渡価額、承継後に所長先生が受け取る給与や顧問料などが想定されます。所長先生の考え方が大きく反映される部分でもあり、顧問先と職員を無事に承継できれば無償でも良いと考える所長先生もいらっしゃいます。承継対価に関しては、本連載の第3回で「事務所価値の計算方法<上>売上基準と利益基準」で簡単ではありますが解説してありますので参考にしてください。

4)承継させない場合の理由と退職慰労金

 承継することを想定して後継者を招聘した経緯から、承継させないこととなった場合には通常、退職するなど事務所から離れることになります。これは両者にとって時間とお金と労力を使い、金銭的にも精神的にもダメージが大きいものです。両者が納得する明確な理由を当初から検討することは当然に無理でしょう。しかし、承継しないことが起こり得ることと、その場合に退職慰労金等を支払うなどの契約をしておくことは、そのような事態が生じないための予防効果もあると思います。

5)事務所所在地

 承継後いずれは事務所を移転して良いのかなど、事務所が所長先生の自己所有物件の場合には事前に明示して取り決めておいた方が良いでしょう。賃料は不動産会社か、最近ではネットで時間をかければ近隣の同様な物件の相場は調べることができます。近隣相場で賃料を決めるのが良いでしょう。

6)承継する職員とその処遇

 通常は現在の職員の継続雇用が基本です。所長先生と職員の間には長い時間を経て様々な人間関係もあります。給与水準は、決して業務内容に相応していなかったり、平均的な人件費率から乖離している場合もありあす。承継後もそれを維持することに経営上無理がある場合も散見されます。大切な論点ですから確り事前に協議しておくべきことだと思います。

7)フォロー期間

 承継後に所長先生がどれくらいの期間、どのような関与をするか、この点も確りお話しして意識合わせをしておくべきでしょう。一線から退いた後も顧問などを希望する、あるいは逆に希望される場合も多いものです。

 

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