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2020年12月8日

【M&Aコラム】後継者がいない税理士のための予備知識(1)

税界タイムス」で弊社アドバイザーが新規連載を開始しましたので紹介いたします。

後継者がいない税理士のための予備知識(1)
多様化する事業承継 早めに着手を

 

■はじめにお伝えしたいこと

 後継者問題に道筋が立っていない所長先生にお伝えしたい予備知識も、事例ごとに異なることが多く、細部まで含めるとかなり膨大になります。そこでまずは、所長先生がまずは自ら考えに着手する手助けになることから連載を始めようと思います。弊社MJS M&Aパートナーズ(略称=mmap(エムマップ)は、ミロク情報サービス(MJS)の100%子会社として顧問先の事業承継、M&Aの相談を受けていますが、同時に会計事務所自体の事業承継のお手伝いも累計で100件を超えました。

 この事例が経験知となり、日々事業承継の方法を改善しています。その中で最初にお伝えしたいことは、後継者問題は、まずは情報を入手して自分の立ち位置を可能な限り客観的に把握することだと思います。病気でも早く受診すれば結果も変わったことも多いのと同様に、後継者問題も着手するのが遅すぎる事例が多いのが残念ながら事実です。それでは、何から着手すれば良いでしょうか。まずは、どのような解決策があるのかを俯瞰してみるのはいかがでしょうか。その中からご自身の選択肢が幾つくらいあるのかを考えてみることをお勧めします。

■もう廃業することに決めている

 比較的ご高齢の所長先生で、規模も小さい事務所の場合には、すでに廃業することを決めておられる方は多いようです。例えば、廃業するために過去数年かけて徐々に顧問先を手放し、職員も減らして来られたケースなどです。ご高齢な所長先生の特徴は、顧問先の社長もご高齢で長く深い信頼関係があることです。廃業するにしても、顧問先が困らぬように信頼できる税理士や税理士法人を探しておく必要があります。信頼関係があるが故に、売上数十億の顧問先が残っているケースもあります。

 このような場合、顧問先を切り分けて紹介する必要もあります。顧問先の大小や数に関わらず、紹介する税理士へのフォローも含めしっかりした承継契約を結べば承継対価を受け取れる場合が多いので、遠慮なくご相談していただきたい事例です。

■まずは親族・職員承継から

 息子・娘が税理士業を継ぐことは代表的かつ理想的な承継の方法です。二代目、三代目から四代目の承継という話しも聞きます。逆に息子には継がせたくないと言われる先生が多いのも事実です。息子の性格・能力もありますが、所長先生のこれまでのご苦労がその根底にある場合が多いようです。また、高度経済成長の波に乗って顧客を増やした事務所も多いですから、現在の日本では息子への承継を躊躇するのも無理はないでしょう。

 資格の問題は常にこの業界の事業承継のネックになります。大学院に通うにしても残りの科目合格も簡単ではありません。承継するには仕事を通して実務力も鍛え、将来の所長として職員にも認めてもらう必要がありますから、仕事と並行しての受験勉強も大変です。一概には言えないですが、資格取得を優先した方が良いように感じます。

 娘婿となる税理士を紹介して欲しいという相談も稀にありますが、これは次元の違う難易度で、そのノウハウは弊社にもありませんが、もし縁が結ばれればこれは見事な事業承継です。

 職員の中に事務所を任せてもいい有資格者がいる所長先生は恵まれていると言えるでしょう。税理士資格と経営能力には関連性は薄いですし、事実、税務や会計は好きだが、マネジメントは嫌いな職員の方が多いくらいでしょう。仮に職員が資格を取得した場合には、具体的に、いつどのように承継するのかは慎重に検討すべきです。

 気を付けるべきことは、上下関係をそのままにして約束ごとを押し付けてしまわないことです。長期的であっても所長の交代ですから、対等な関係で約束事は契約書に落とし込むべきでしょう。後継者として予定していながら転職あるいは独立してしまったという話は数えたら切りがありません。

 一般的には職員の気持ちを十分に理解できず意思疎通が不十分なケースが多いようです。後継者候補と決めたなら、早めに考えを伝えるべきでしょう。このような場合でも仲介役として私たちのようなアドバイザーを是非、活用していただきたいものです。

 資格さえ有れば事務所を任せてもいい、そのような職員がいる事務所はかなりの数に上りますが、資格が無ければ承継はできません。その場合は、次のような選択肢を検討することになります。

■後継者の招聘は難しい

 60代、70代の所長先生からのご相談事例の中で一番多いのは、親族・職員には後継者はいないが、職員も数名雇用しており、このまま事務所を承継してくれる若い税理士を紹介して欲しいというものです。至極当然な承継方法でありますが、実は今、この後継税理士を招聘する方法が非常に難しいのです。

 まず、若い世代の税理士は、所謂ビッグ4や大手税理士法人に勤務するなど大都市に集中する傾向があり、独立する場合も大都市や政令指定都市などを選択します。つまり、地域間の需給のミスマッチが生じており、特に地方都市に所長先生が思い描く理想的な若い税理士を招聘できる可能性は極めて低いのです。地方都市では、税理士の新規登録も税務署等の退官者が多いのが実情です。

 若い税理士と運好く出会えたとしても、上下関係的な思考があると承継をビジネスライクに想定していた若い世代の税理士との間で意思疎通できず退職してしまうケースも散見されます。地方都市での税理士の高齢化は着々と進んでおり、その解決は業界の大きな課題と言えるでしょう。

 後継者が招聘できない場合には、いわゆる事業譲渡(M&A)も検討しなければなりません。

■事業譲渡の方法もいろいろ

 事業譲渡(M&A)の方法は、会計事務所業界でもかなり認知されているようです。親族・職員承継も、後継税理士の招聘も難しい場合には、この方法を活用して解決する道を探ります。立場が違っても事業譲渡に共通する目標は、顧問先との顧問契約を解約されることなく継続し、職員も希望するものは全員雇用を継続することです。職員と顧問先は車の両輪ですが、事前に十分な調整がされていないと、職員との信頼関係が崩れ、退職や顧問先の離反に繋がります。お相手を理解するには本来、やはりある程度の時間が必要ですが物理的に無理な場合もありますので注意が必要です。

 事業譲渡でも事務所を統合せず継続利用する、つまり事業譲受側の税理士法人の支店となる場合ですが、所長の重責を担える税理士をすぐに派遣することは大手の税理士法人でも難しいのが現状です。所長先生が数年は継続して現役業務をカバーできると上手く進む確率が高くなりますので、その意味でも事業譲渡のタイミングは、引退したい年齢の少なくとも5年前くらいが理想的と言えるでしょう。少しでも早く検討を始めて欲しい理由でもあります。

(次回発行へつづく)

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