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2020年11月20日

【M&Aコラム】税理士事務所の事業承継多様化へ

税界タイムス」から弊社アドバイザーがコメントした記事を抜粋して紹介いたします。

税理士事務所の事業承継多様化へM&Aだけではニーズに対応できず

 税理士業界においても、事務所のM&A(事業譲渡)という言葉を耳にするようになってから早10年が過ぎようとしている。この手法は、後継者問題だけでなく、税理士法人の規模拡大という側面もある。しかし現在、M&Aが爆発的に増加しているわけでもなく、M&Aの後、職員が辞めてしまったなどネガティブな話も耳にする。それでも後継者不足問題は、業界の緊急課題。根本的な解決策はあるのだろうか。

M&Aでの解決は、全体の5%!?

 税理士事務所の事業承継は、業界が抱える大きな課題だが、全国の実態を正確に把握できる統計は見当たらない。しかしながら、限られたデータからでも、承継の実態の輪郭は掴めそうだ。

 日本税理士会連合会(日税連)の公表資料によると、令和元年の税理士登録抹消数は廃業1,245人、死亡659人であった。つまり年間約2,000人ペースで税理士資格者が減っていることになる。事務所の顧客数や職員数はそれぞれ違っても、少なくとも事業承継の機会はこの2,000件程度あったと見なすことができる。さらに税理士の平均年齢から想定しても、後継者不在の悩みを抱え、引退のタイミングや方法を思案中であったり、知人に相談するなど、この数倍の事業承継の機会が進行しているはずである。

 他方、M&Aによる承継となると、個人事務所間よりも税理士法人が譲受側となるM&Aが多数を占める。また、顧問契約の継続のためには職員の継続雇用が前提となるため、通勤等を考慮すると、必然的に税理士法人の支店となるM&Aが多くなる傾向がある。

 それでは税理士法人の支店はどれくらい増加しているのだろうか。これも日税連の令和2年5月の会務報告によれば、支店(従たる事務所)の設置が283件(廃止139件)であるが、その大半が知人間による税理士法人の設置に伴うものと思われ、税理士法人によるM&Aで支店登録したケースは100件に満たないと推測できる。もちろん、実際のスキームはそれほど単純ではないにしろ、大局的に見るとM&Aの課題解決シェアは多く見積もっても全体の5%程度と考えることができる。

後継者の紹介が最大ニーズ

 後継者に相応しい知識と経験、それに管理能力もある職員がいる事務所は散見されるが、言うまでもなく、税理士事務所の承継を難しくしているのは資格が必要であることだ。多くの税理士が望むのは、「後継者を紹介して欲しい」ということで、当初からM&Aを選択する税理士は少ない。その理由としては、対価を得て譲渡することに対する気まずさよりも、譲渡後に職員が退職したり、顧問先も離れてしまったという噂を聞くケースが多いためだ。実際には、一般企業のM&Aと同様に成功もあれば失敗もあり、その中間も多数ある。しかし、悪い噂の方が広がりやすい傾向はあるだろう。

 では、後継者の紹介による承継は成功しているかといえば、こちらも失敗例には事欠かないのが実情だ。人柄や能力などに対して要求レベルが高くなり、職員との関係も構築できずに、退職するケースはよく耳にする。背景にある業界の大きな課題は、30代、40代の税理士・公認会計士は首都圏など都会志向があり、人材紹介会社も大都市の税理士法人へ人材を送り込むことがビジネスになっている。全国の地方都市と大都市で、税理士の需給にミスマッチが発生しているのだ。地方都市では、新規登録者の多くが税務署等の退官者であり、最近増加傾向にある公認会計士の税理士登録は大都市が多い。東京一極集中の弊害が、税理士業界でも生じている。

時間をかけてカスタマイズする事業承継

 それでは、現在、多くの事業承継はどのように行われているのだろうか。一例を紹介すると次のようになる。

①同じ支部の後輩に簡単な覚書を交わす程度で承継候補とする
②税務署OBに数年間依頼して後継者探しの時間を稼ぐ
③知人の税理士に顧客と職員を段階的に移す
④事前準備なく体調を崩した場合は親族も対応が分からないため、税理士会支部などの協力を得て支部内で申告を分担する

―など、税理士自身や親族、支部長など各々が知恵を絞っているのが現状である。

 事業承継の失敗例として最もよく聞くのは、後継者と考えていた税理士資格を有する職員が辞めてしまった例であり、事業承継を計画的に進めることの難しさが浮き彫りに。試行錯誤している内に年齢を重ね、結果的に職員の給与負担が大きくなり、廃業しか選択肢がないと考えるようになる所長も多い。

 では今後、こうした状況を打開する策はないのだろうか。

 事業承継を専門とする企業のアドバイザーによると、「税理士事務所の事業譲渡(M&A)はあくまで選択肢の一つでしかなく、決してそれが最善の策とは言い切れません。全国の地方都市では、地域特性や税理士不足から、長期的なシナリオを考え、業務提携や税理士法人制度を活用したり、税務署OBも加えた段階的なご子息への承継など、事案ごとに考案したスキームでないと、現実的な承継計画とはいえないでしょう」と話している。(株式会社MJS M&Aパートナーズ 中尾安芸雄氏)

 具体的な事例としては「税理士法人の支店となるケースでは、要望を満たす税理士を派遣できない場合が多いのですが、無理をせず業務提携による猶予期間とその間の目標を明確にして、段階的な承継を目指します」(同氏)。M&A仲介会社は、契約締結による成功報酬ビジネスが一般的で、上記のような定型化できず、時間をかけなくては成功しない案件については、あまり歓迎はされない。

 しかし、「最終的に事業譲渡による報酬モデルしかなければそれしか提案できませんが、顧客の要望を聞き入れながらの問題解決が先で、それに合った契約モデルと報酬体系があれば良いと考えています」(同氏)としている。

 今後、さらに加速する税理士の高齢化と事業承継問題。現在の解決策であるM&Aはあくまで一つの方法にしか過ぎず、その意味においては、新しい事業承継モデルが確立され、早期に普及することを是非期待したい。

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